開発経験ゼロでも、3週間で業務システムは作れるか── 4つの生成AIが競った「スケジュール共有の自動化プロジェクト」の全記録
1. 教務DXプロジェクトと「思考のDX化」
教務DXプロジェクトは、本学の教務業務におけるデジタルトランスフォーメーションを推進する組織横断的な取り組みです。その活動指針のひとつに「思考のDX化」を掲げています。これは、ChatGPTやGeminiなどのAI技術を日常業務に統合し、アイデア創出から文書作成まで、思考プロセス自体のデジタル変革を推進するというものです。
今回、この指針を実践する場として「スケジュール共有の自動化プロジェクト」を立ち上げました。
2. プロジェクトの背景 ── 何を解決したかったのか
本学では、年間の主な会議や行事は前年度にスケジューリングされ、当年度始めにExcel(xlsx形式)の「年間行事予定表」を配付することで学内共有を行っています。

図1:Excel形式の学内行事予定表
この運用において、各教職員がスケジュール管理を行う場合、配付された予定表を見ながら、自分のGoogleカレンダーやスケジューラソフトなどに手動で転記する必要があります。つまり、個別のスケジュールにおいて、開催者・参加者の双方で同じ情報を二重に管理することになり、転記の誤りが会議への参加に影響するリスクもあります。さらに、予定が変更された際には再度の周知と再転記の手間が生じていました。
そこで、年間行事予定表に記載されている予定を自動的にGoogleカレンダーに登録し、参加者に共有される仕組みを開発することを目標としました。あわせて、事務局で使用しているサイボウズGaroonへの転記自動化にも取り組むこととしました。

図2:プロジェクトの背景 ── 現状と目指す姿
3. Excel形式の学内行事予定表をGoogleカレンダー等に変換する際の課題
本プロジェクトにおいて乗り越えるべき課題は大きく分けて3つ存在しています。
1つめは、非構造化データを構造化データに変換することです。Excel形式の行事予定表は人間にとって見やすくなるよう情報が削減されています。より具体的には、「1月2日 教授会①、 1月3日教授会②」ではなく、「1月2日~3日 教授会」、「1月2日 教授会(3日まで)」、「1月2、3日(教授会)」というような形によりスケジュールが記載され、表記方法もバラバラです。また、1つのセルに複数の予定が記載されていることもあり、予定の区切りは改行、空白、句読点と様々です。
2つめは、行事予定表に記載されている予定の数です。本学の行事予定表は「全学」、「獣医学部」、「生命環境科学部」の行事予定がそれぞれ組まれており、総数では300を超えます。これを短い時間で構造化データに変換するとともに、担当者の業務に支障が出ないよう、微調整が容易に可能となるシステムを構築する必要があります。
3つめは、変換対象となるシステムが2系統になることです。Google カレンダー及びサイボウズGaroonはどちらもスケジュール登録のためのAPIが用意されていますが、本学のシステム構成上GaroonについてはAPIが使えません。よって、スケジュール登録に際してはシステム系統別にプログラムを構築する必要があります。

図3:プロジェクトが乗り越えるべき課題
通常、このように複雑なシステム構築では、開発経験を有する者を充てプロジェクトを進行しますが、「思考プロセス自体のデジタル変革を推進を進める」という観点から、以下に示す特殊なアプローチにより、開発を進めることとなりました。
4. ユニークな進め方 ── 生成AI×操者の「ポケモンバトル」
本プロジェクトの特徴は、その進め方にあります。
「生成AIのフル活用により、開発の知識を持たない者であっても、業務用のプログラムが短期間で構築できるか」という問いを立て、本学で使用可能な4つの生成AIについて、教務DXプロジェクトメンバーから操者を選出。操者+生成AIのペアが同一テーマで成果物を作成し、アイデアソン・ハッカソンのような形式で競い合う「ポケモンバトル」方式を採用しました。
参加した4つのペアは以下のとおりです。
• Google Gemini(NotebookLM含む)── 操者:池田・信田
• ChatGPT 有料版 ── 操者:柄澤・(飯塚・渡邉)
• Claude 有料版(Opus 4.6)── 操者:豊田
• Microsoft Copilot ── 操者:富永
開発期間は3月2日から23日までの約3週間、最大工数は15時間(週5時間程度)という制約のもと進行しました。

図4:「ポケモンバトル」方式 ── 操者+生成AIペアの対決
5. 3段階のデザインレビューで品質を担保
プロジェクトは、3段階のデザインレビュー(DR)を通じて品質を段階的に高めていきました。
ここで重要なルールがあります。各DRにおいて最も優れた成果物に選ばれたものは、全ペアの生成AIに共有され、次の段階ではその成果物をベースに作業を進めるという仕組みです。つまり、最良の仕様書が全員の出発点になり、最良の設計書が全員の開発の土台になる。個々の競争でありながら、プロジェクト全体としては常に最高品質の成果物の上に次のフェーズを積み上げていく設計です。

図5:3段階のデザインレビュー ── 競争と共有の仕組み
DR1(2月16日)── プロジェクト仕様の策定
各ペアが生成AIと対話しながらプロジェクト全体の仕様書を作成し、レビュー・評価を実施しました。年間行事予定表の分析から、構造化データへの変換方法、Googleカレンダーへの登録方式、Garoon転記の方針まで、プロジェクトの全体像を固めるフェーズです。ここで最も優れた仕様書が選ばれ、DR2の共通基盤となりました。
DR2(2月27日)── プログラム設計書の策定
DR1で選定された仕様書をもとに、各ペアがプログラム設計書を作成しました。外部設計・内部設計・実装手順を策定し、実際の開発に入るための詳細な青写真を描きます。ここでも最優秀の設計書が選ばれ、全ペアに共有されたうえで開発フェーズへ進みました。
DR3(3月25日)── 成果物の比較・最終評価
いよいよ最終評価です。開発されたプログラムとドキュメントについて、実際に運用を担う教務・学生支援課員をギャラリー(外部審査員)としてお招きし、対面発表の後、評価を行いました。
6. DR3の結果 ── Claude×豊田ペアのプロダクトを採用
DR3では、以下の4つの観点からギャラリーによる評価が行われました。
1. プログラムの網羅性 ── 構造化変換・カレンダー登録・Garoon転記のすべてが開発されているか
2. 仕様・設計との整合性 ── 仕様書・設計書どおりの開発がなされているか
3. 業務使用への耐性 ── 通常業務での使用に耐えうるか
4. ドキュメントの整備 ── マニュアル・発表用資料等が整理されているか
審査の結果、Claude 有料版(Opus 4.6)×豊田氏のプロダクトが最終的に選定されました。


図6:DRによる 評価
採用されたシステムは、Pythonによる年間行事予定表の構造化変換、GAS(Google Apps Script)によるGoogleカレンダー一括登録、そしてSelenium WebDriverによるGaroon転記の3つのプログラムで構成されており、カスタムメニューによる非エンジニアでも運用可能な設計が評価されました。



図7:採用されたシステム

図8:Googleカレンダーに変換された行事予定表

図9:Garoonに変換された行事予定表
7. 今後の展望

採用が決定したプロダクトは、今後テスト運用を経て実運用への移行を進めていきます。
本プロジェクトを通じて、「開発の知識を持たない職員であっても、生成AIをフル活用することで業務用プログラムを短期間で構築できる」という可能性が示されました。仕様策定からプログラム設計、実装、ドキュメント整備まで、生成AIが一貫してパートナーとなる新しい業務改善の形です。
教務DXプロジェクトでは、今回得られた知見を学内に共有するとともに、「思考のDX化」のさらなる実践に取り組んでまいります。
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